肺胞マクロファージにおけるプロテアーゼおよびアンチプロテアーゼの発現と慢性閉塞性肺疾患との関係
日本医科大学呼吸器内科
【背景】肺胞マクロファージは,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)の病態において,matrix metalloproteinases(MMPs)やcathepsinsといったプロテアーゼの発現を介して重要な役割を果たしていると考えられている.肺胞マクロファージは同時に,MMPsの阻害因子であるtissue inhibitors of metalloproteinases (TIMPs)およびcathepsinsの阻害因子であるcystatin Cも発現している.これらプロテアーゼおよびアンチプロテアーゼのバランスの悪化が,肺気腫の原因となっている可能性がある.【目的】肺胞マクロファージにおけるMMPs,cathepsinsおよびその阻害因子の発現量とその遺伝子型との関連,また発現量とCOPDの表現型との関連について検討する.【方法】末梢肺に限局した肺腫瘍患者109人について,外科切除時に得られた肺標本の正常な部分を選び気管支肺洗浄を行い,肺胞マクロファージを採取した.この肺胞マクロファージを用い,quantitative real-time PCRによりMMPs,cathepsins,TIMPsおよびcystatin Cの発現量を調べた.これら遺伝子のベースラインでの発現量とその遺伝子型の関連について調べた.遺伝子発現量と,肺機能検査およびcomputed tomography(CT)-scanの結果との関連についても検討を行った.【結果】肺胞マクロファージにおけるcystatin Cのベースラインでの発現量はFEV1% predictedと正の相関にあり,MMP12のベースライン発現量はFEV1% predictedおよびDLco/VA% predictedと負の相関にあった.cystatin CおよびMMP1の遺伝子型は,それぞれの遺伝子のベースライン発現量と優位に相関していた.【結語】MMP12の肺胞マクロファージにおける発現がCOPDと関連することが確認され,またcystatin C とCOPDとの関連が新たに見いだされた.
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日本医科大学呼吸器内科
日呼吸誌, 2(4): 476-486, 2013