診断後4年経過したインジウム肺の1例
中野真規子a 鎌田 浩史b 斎藤 史武b 田中 昭代c 平田美由紀c 大前 和幸a
a慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室
b同 呼吸器内科
c九州大学大学院医学研究院環境医学分野
インジウムは液晶やプラズマなど薄型ディスプレイ用電極の必須金属で,日本の需要は世界の85%を占める.世界に先駆け2003年にインジウム肺の症例報告がなされ,我が国はこれまでに8例の報告があり,2010年には米国(2例),中国(1例)からも報告があった.日本の症例の主な病理所見は,間質および肺胞腔内に大量のコレステロール結晶を伴う間質性変化(一部は気腫性変化)を示すのに対し,米国例はすべて肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)の診断である.本症例がPAPかを再考するも肺胞腔内サーファクタント物質の存在は少なく,これは両国の患者背景(インジウム曝露期間,血清インジウム濃度,抗GM-CSF中和抗体の有無)の差異が要因かもしれない.今回我々は曝露中止後の経過観察で画像,呼吸機能の緩徐な進行悪化というインジウム肺の性質を確認したので,かつて報告したものに価値のある追加情報を加えた自験例1症例と,文献上での日本と米国症例の比較検討を行った結果を報告する.
インジウム肺 インジウム・スズ酸化物 気腫性変化 間質性肺炎 肺胞蛋白症
Received 18 Apr 2011 / Accepted 14 Feb 2012
連絡先:中野 真規子
〒160-8582 東京都新宿区信濃町35
慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室
日呼吸誌, 1(5): 381-387, 2012