膿胸を伴ったMycobacterium abscessusによる肺感染症の1例
渡橋 剛a 矢寺 和博b 松尾 正樹c 伊藤 浩d 矢口 大三d 宮崎 晋一c 松下 明弘c 町田 和彦c 菅谷 将一c 迎 寛b
a産業医科大学若松病院呼吸器内科
b産業医科大学医学部呼吸器内科学
c独立行政法人労働者健康福祉機構中部ろうさい病院呼吸器内科
d市立四日市病院呼吸器内科
e独立行政法人労働者健康福祉機構中部ろうさい病院呼吸器外科
症例は68歳女性.2000年9月に上気道症状を主訴として中部ろうさい病院呼吸器内科を初診した.2005年にMycobacterium abscessusによる肺感染症として2005年3月からクラリスロマイシン(clarithromycin:CAM),リファンピシン(rifampicin:RFP),エタンブトール(ethanbutol:EB)により治療開始し,2007年3月に喀痰抗酸菌培養陰性を確認したため,治療を中止した.2007年8月初旬より38℃台の発熱および労作時の呼吸困難を認めたため,同科を再度受診.胸部X線写真および胸部CTにて右上葉に虚脱および空洞を伴う浸潤影,右気胸および胸水貯留を認め,右胸腔ドレナージを施行した.胸腔ドレーンからの排液は膿性で抗酸菌塗抹陽性であり,培養でM. abscessusが同定されたため,同菌による膿胸と診断した.アミカシン(amikacin:AMK),イミペネム・シラスタチン合剤(imipenem/cilastatin:IPM/CS),CAMによる治療を開始したところ,徐々に胸水の性状は改善し排液量も減少,塗抹菌数も減少した.炎症所見や画像所見なども徐々に改善が得られたが,胸水の抗酸菌培養が陰性化するまで約6ヶ月間の入院治療を必要とした.外来での継続治療を行うにあたりIPM/CS,AMKをファロペネム(faropenem:FAPM),レボフロキサシン(levofloxacin:LVFX)へと変更し,これらにCAMを加えた3剤による内服抗菌薬治療とした.2009年6月に一度喀痰培養陽性となったが,2009年12月以降は喀痰抗酸菌培養は陰性化しており2011年9月現在治療継続しているが,経過良好である.
非結核性抗酸菌症 膿胸 Mycobacterium abscessus
Received 7 Jun 2011 / Accepted 25 Nov 2011
連絡先:渡橋 剛
〒808-0024 福岡県北九州市若松区浜町1-17-1
産業医科大学若松病院呼吸器内科
日呼吸誌, 1(3): 213-218, 2012