病室内での牧草吸入負荷試験が診断に有用であった農夫肺の1例
石黒 卓a 高柳 昇a 米田紘一郎a 青木 史暁a 杉田 裕a 河端 美則b
a埼玉県立循環器・呼吸器病センター呼吸器内科
b同 病理診断科
症例は7年間酪農業に従事している70歳男性.咳嗽,労作時の息切れを自覚して当センターを受診した.動脈血酸素分圧は71.2 Torr,胸部コンピュータ断層検査では小葉中心性のスリガラス状陰影,浸潤影を認め,入院後に改善した.自宅への帰宅負荷試験は陰性だった.病室を利用した牧草吸入誘発試験にて発熱,咳嗽,息切れが出現し,動脈血酸素分圧の低下,白血球数およびCRP値の上昇,呼吸機能検査にて肺活量および一酸化炭素拡散能の低下,X線での陰影の出現を認め,農夫肺と診断した.牧草からAspergillus fumigatus,Aspergillus nigerが培養され,A. nigerに対する沈降抗体が陽性であった.一方,A. fumigatus,Saccharopolyspora rectivirgula,Thermoactinomyces vulgaris,Trichosporon asahii,Trichosporon mucoides,鳩血清に対する血清沈降抗体は陰性であった.牧草を病室内に持ち込んで行う吸入誘発試験は,農夫肺の診断に有用な可能性がある.
Received 9 Jun 2011 / Accepted 9 Aug 2011
連絡先:石黒 卓
〒360-0965 埼玉県熊谷市板井1696
埼玉県立循環器・呼吸器病センター呼吸器内科
日呼吸誌, 1(1): 67-72, 2012