血痰にて発症し右心転移から肺動脈腫瘍塞栓をきたし,肺梗塞を繰り返した食道癌の1例
工藤健一郎a 松尾 潔a 山下 晴弘b 藤原 慶一a 米井 敏郎a 佐藤 利雄a
a国立病院機構岡山医療センター呼吸器科1
b同 消化器科
症例は65歳女性.2009年1月頃から血痰を自覚し4月に前医を受診した.胸部CT検査にて多彩な陰影を認め,前医にて気管支鏡検査を施行された.血性の気管支肺胞洗浄液であったため特発性肺胞出血とされ,また無治療で陰影は消退傾向となったため経過観察となった.同年9月に再び血痰,労作時の息切れが出現したため前医に入院となり,精査のため当院へ転院となった.心臓超音波検査にて三尖弁に付着する腫瘤影を認めたため,心臓腫瘍摘出術,肺生検を施行した.また上部消化管内視鏡検査にて中部食道に食道癌を認め,食道癌から右心系に転移し肺動脈腫瘍塞栓,肺梗塞をきたしたと考えられた.病理学的にpulmonary tumor thrombotic microangiopathy(PTTM)も伴っていた.docetaxelにて化学療法を施行し,CT上での陰影の改善や血液検査での線溶系異常の改善を認めたが,診断後約2ヶ月半で死亡した.食道癌の右心系への転移はきわめてまれであり,肺動脈腫瘍塞栓が血痰と肺野陰影の主因と考えられた.
Received 24 Mar 2011 / Accepted 2 Sep 2011
連絡先:松尾 潔
〒701-1192 岡山市北区田益1711-1
国立病院機構岡山医療センター呼吸器科1
日呼吸誌, 1(1): 20-26, 2012